哲劇メモ

吉川浩満(@哲学の劇場)の日々の泡

シュガートースト

えっへん。

あまり知られていないことだが(*1)、わたくしは「シュガートースト」なる食物がけっこう好きである。といっても、味にたいして強いこだわりがあるわけでもない。コンビニに置いてあるような、安物の食パンに安物の砂糖をまぶした安物のマーガリン(のやうなもの)が乗せてある、アレでも十分である。

先日、談話室滝沢(*2)で快調に談話中、なぜだか急に食べたくなった。しかし滝沢のメニューにはシュガートーストがない。そこで、とりあえず普通のトーストを注文し、あとでマイシュガートーストをつくろうと目論む。数分後、若い女性店員がトーストを持ってきた。

とにかく頭の中がシュガートーストでいっぱい(両目がハート。ハートの中はシュガートースト)であったわたくしは、さっそくテーブルに備え付けの滝沢ネーム入りシュガー袋の封を切り、精神を集中させ、シュガーまぶしの作業を開始した。

と、突然、店員の悲痛な叫びが店内にこだまし、小刻みに運動していたわたくしの右手も思わず止まった。

「お客様! それは砂糖でございます!」

シュガーまぶし作業姿勢のまま、口を開け、呆然として凍りつくわたくし。滝沢において初めて出会った、店員による「お客様!」をともなう制止。

無限の時が流れた。その間に彼女は態勢を立て直し、むずかる子どもを静かに諭すように、こう続けた。

「お塩はこちらにございます」

滝沢スマイルにはかなわない。「承知の上だ!」とか、「いや、いや、わたしは真面目だ!」(©ウィトゲンシュタイン)などと叫び返せばよかったのだろう。しかし、わたくしにできたのはただ、(いつものように)諭されキャラとしてコウベを垂れ、「はい」とつぶやくことのみであった。

彼女が去ったのち、こっそりとシュガーまぶし作業を続けた。