不敬文学、『源氏物語』
恒例の「本日の朝刊」コーナー(嘘)、今日は『朝日新聞』から。
- 「不敬文学と呼ばれた昭和10年代――源氏物語 あちこち「削ル」」、『朝日新聞』朝刊、2006年5月31日
1939〜1941年(昭和14〜16年)に刊行された『潤一郎訳源氏物語』(「旧訳」)の成立過程。そこでなにが起こっていたのか。同記事で紹介されているのは、早稲田大学大学院博士課程の西野厚志氏による研究。
旧訳の版元であった中央公論社は、国語学者・山田孝雄(やまだ・よしお/1875-1958)に校閲を依頼した。誤訳や「不敬部分」の指摘で真っ赤になったゲラは第二次大戦中に焼失したとされている。この「旧訳谷崎源氏」は、当局と山田の圧力に屈した作品であったとの見方が通説とのこと。
富山市立図書館には、山田の蔵書が収められた「山田孝雄文庫」が設置されている。西野氏は、蔵書中の『定本源氏物語新解』(金子元臣、明治書院)のなかに「削レリ」「削ル」などの書き込みがあることを発見した。ほかの蔵書にはこうした書き込みはないという。西野氏はこれを、谷崎源氏を校閲するための削除案と考えている。
興味深いのは、「国粋主義者」山田孝雄による校閲の事実ではなく(そんなのはおもしろくもなんともない)、『源氏物語』が不敬文学とされた時代があったことでもなく(ある意味当然である)、箇所によっては谷崎潤一郎のほうがずっと「敏感」になっていたらしいという点。西野氏によれば、山田の書き込みは「賢木」「薄雲」の巻にとくに多い。実際に旧訳でもその部分はすべて削除されていたという。しかし、太政天皇にかかわる箇所については、山田の書き込みよりもさらに広い範囲で削除が行われていた……。
というわけで、より詳しくは上記新聞記事、ならびに下記雑誌論文をご参照ください。
- 西野厚志「ボロメオの結び目をほどく―新資料からみる「谷崎源氏」―」、『物語研究』第6号、2006
ずっとかたわらで見守ってきた(見てただけでとくに手助けはしてないが)学友の超地味変(*)な研究がこうして「日の目」を見ることになった(何人が読むのか知らんが朝日新聞の発行部数は数百万部)。めでたい。
- (*)たいへん地味かつ変ちくりんなさま。
研究のさらなる深化に期待。あとできれば、これをもとに『ダ・ヴィンチ・コード』みたいにエンターテイニングでミステリアスでサスペンスフルでベスト・セリングな不敬小説もお願いしたい(もちろんワイヤー・アクションやカー・チェイスも必須。映画化で二度おいしい)。と、ついでに無理な注文もしてみるテスト。
追記
冒頭の『朝日新聞』記事のタイトル、思わず「不敬文学と呼ばれて〜」と読んでしまうのはわたくしだけだろうか。
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