論理定項それとも明徳義塾?
散髪をした。ていうか、してもらった(美容師さんに)。
行かなきゃ行かなきゃ散髪に(倒置法)と思っていたのだけれど、なかなかなかなか行けなかった。前回切ったのは半年以上前か。いつでも行けたハズなんだけど、ずーっと心のゆとりがなくって、なんだかそれどころじゃなかったのである。
で、今回はふたたび染髪もすることにした。色はもちろん金である。
一年ちかく前から黒に戻していたのだが、昨秋モヒカンのFさん(もちろんソフトモヒカンじゃなくてガチのモヒカン)から、「金のほうがよかったッスよ」(大意)と進言されてから、ずっと気になっていたのである。Fさんがどれだけ本気だったのかはわからないけれど、言われたほうからすれば気になる。だって、ミスター・モヒカンからそう進言されてスルーするというわけにはいかないじゃないか。
ブリーチ後にカラーリングというコースゆえ、長丁場になることが予想された。ぜんぶで3〜4時間はかかりそう。で、そのうち2時間は読書に没頭できるだろう。2時間以上つづけて読書をできるというのも、ものすごくひさしぶりな気がする。そんなのいつでもできたハズなんだけど、ずーっと心のゆとりがなくって以下略だったのである。
なにを読もうか。
も一度ゆっくりと再読復習したいと思っていた、飯田隆『ウィトゲンシュタイン』をもっていくことにした。
- 飯田隆『ウィトゲンシュタイン――言語の限界』講談社、2005[新装版]
ウィトゲンシュタイン (「現代思想の冒険者たち」Select)
- 作者: 飯田隆
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しかし美容院に向かう途中、駅ちかくの書店で朝青龍の本を見つけてしまった。ファンとしては万難を排して読まねばなるまい。
- 作者: 朝青龍明徳
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どちらを読もうか、迷いに迷った。
浅学非才たる小生の読書スピードからして両方読んでしまうのはとうてい無理な相談である。それに2冊抱えて美容院の席につくというのもなんだかなぁ。結局、もとの志を貫徹するのがよいと判断。朝青龍はロッカーのバッグに置いておき、ぼくは飯田隆をとりだした。
髪染剤を塗ってもらい、髪が染まるのを待ちながら快調に読み進める。しかし好事魔多し。だんだん頭(皮)が熱く熱く痛く痛くなってきた。
いつものことながらブリーチは痛い。
ちょうど『論理哲学論考』における論理定項のあつかいについて書かれた箇所にさしかかったあたりから、苦痛が読書をさまたげるようになってきた。論理学があつかうのは論理的真理という特殊な真理なのだと考えてしまってよいものだろうか。もしそうであるなら、論理学には特殊な対象があることになるし、そこで用いられる論理定項も特殊ななにかを研究対象としてもつことになる。しかし、ほんとうにそういえるのだろうか。むしろ論理的対象など存在せず、また論理定項はなにものをも代表しないのではないだろうか……あーッ、むずかしーこと考えられない!
後悔の念がおしよせる。
朝青龍にしておけばよかった。本の章立てからすると、いまごろちょうど、16歳の彼が相撲留学のためモンゴルから日本にやってきた箇所にさしかかっていることだろう。生まれて初めて見た海。なにからなにまで目新しい日本の風物。明徳義塾での寮生活。そしてなにより、きびしくつらい明徳義塾の相撲稽古。
監督は僕だけ怒る。
一生懸命やっていても怒る。
悪くなくても怒る。
あの頃、辛くなるとそう思った。
オレは、負けても、負けても、
「もう一丁」
「もう一丁」
がむしゃらにぶつかるしかなかった。(p.88)
朝青龍にしていたら、16歳の朝青龍といっしょに頭(皮)の痛みを乗り越えて、「もう一頁」「もう一頁」と読書を進められたのに。せっかくの2時間読書にこんなことでクジけてしまうなんて、アア情けない。そういえばウィトゲンシュタインだって、志願兵として参加した第一次世界大戦のさなかに論理定項について考えをめぐらせていたはずじゃないか。……というわけで、しょーもなくかつおーげさな妄念にとらわれつつ染髪を終えることになった。
帰宅後、朝青龍本を一気に読み終えた。おもしろかった。でも、もっともっと話を聞きたい。というか、できればいっしょに飲み明かしたい。
飯田本は、論理定項の箇所で止まったままである。
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◇哲劇メモ > [随想] - エセーあるいは「生活感情の表現」
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