哲劇メモ

吉川浩満(@哲学の劇場)の日々の泡

3日前(叙事詩)

承前

cf. http://d.hatena.ne.jp/clinamen/20041101#p1

月日は百代の過客にして、行かふ年も又旅人也
――『おくのほそ道』

いま松尾スズキがいいこといった!(違

今日のことを今日のうちに書いておきたいという、ただそれだけの理由で、とりあえずかたちだけでも投稿しておくということです。
http://d.hatena.ne.jp/clinamen/20041101#p1

昨日のことを昨日のうちに書こうとしてエントリーしたのだが、エントリーをした瞬間にエミネムになり、結局そのまま朝まで寝てしまった。だれにいったらよいのかわからないのだが、だれにもいわなくてもよいのかもしれないのだが、申し訳ない。

……と書いているうちに、「昨日」のことだったことが一昨日のことになってしまった。

……と書いているうちに、足あと5678人目まつりや公園マ散歩などの重大イヴェントが入り、「一昨日」のことだったことが三日前のことになってしまった。

まことに、月日は百代の過客である。いま松尾スズキが(略

というわけで、今日は、ついさっきまで一昨日のことであり、つい一昨日までは昨日のことであった三日前のこと(あーややこしい)を書こうと思う。しかし期待はしないでいただきたい。行きがかり上なんとなく書かなければならないような気になっただけで、内容は典型的なやおい系日記(ヤマなしオチなしイミなしのザッツ・ダイアリー)である。

 *-*

めずらしく早起きをした。

朝7時起床。無限の時間が残されているような万能感に浸っていたところ、燃えるごみを出すのを忘れていたことに気づく。急いで袋にまとめ、戸外に出しにいく。するとそこへちょうどごみ収集車がやってきた。そのまま制服姿のおにいさん(美形)に袋を渡す。グッド・タイミング。

浅草をめざしてKO線に乗り込む。久しぶりの満員電車だ。なにもわざわざラッシュ時に出かけることもないのだが、事を有利に運ぶためにも早い時間に出発するにしくはない。

車両の真ん中付近に押し流されたとき、突然ドアのほうからパセティックな叫び声が聞こえてきた。

「ちょっと……。モウッ、そんなに押さないでヨッ!」

ある種エロティックな響きすら帯びかねないその声の主は、アート・ガーファンクル風のヘアスタイルがある種魅力的といえなくもない中年女性であった。

「えっ、押さないでっていわれても……」

おっと。まさか異議申し立ての暴挙におよぶとは。20代前半とおぼしき青年である。その気弱な声色に好感をおぼえる。しかし彼女はもちろん好感をおぼえるどころではないらしい。すぐさま宣告を下した。

「わたしは乗れるの! あなたは乗れないのッ!」

これを宣告と呼ばずして、いったいなにを宣告を呼ぼうか(いや、なにも呼べない)。乗車早々にして恒例の満員電車劇場に出会うことができた僥倖に、ただただ感謝するばかりであった。

ところで、浅草に出向こうと思い立った理由はといえば、ほかでもない、あの「犬印鞄製作所」の直営店を訪ねるためである。ほかになんの理由があろうか(いや、ない)。

犬印鞄の名声は隠居若年寄たるわたくしの小耳にもたびたび入ってきたのであったが、なにより決定的だったのは昨夜(一昨日からみた昨夜である。あーややこしい)のKO線車中での出来事であった。ガラガラの最終電車で茫然としていると、目の前に坐った女性のトートバッグに目が釘づけになった。バッグの中央には、誇らしく「犬印鞄製作所」のラベル。やはりこれは手に入れなければ。しかし時はすでに午前0時をまわっている。

しばしの逡巡ののち、彼女のバッグを強奪することはあきらめ、夜が明けたら素直に直営店に向かうことにしたのであった。

古いビルの2階にその店はあった。店内は、レジカウンターを挟んで商品の陳列エリアと従業員の作業場とで二分されており、前者の清潔さと後者の乱雑さの好対照が印象的である。一心不乱にバッグの製作に打ち込む従業員を見るに、たいへんな数のバックオーダーを抱えている模様。そうとう忙しいのではなかろうか。

商品は期待どおりのすばらしさで、ついつい買う予定のないものまで買ってしまう破目におちいった(もちろんそれは犬印さんのせいではなく自分のせいなのだが)。購入したのは、バケツトート(大/ブラック)、ペンケース(ブラウン)、iPodケース(生成り)の3点。それにしても、犬印、犬印、犬印のオンパレードは壮観である。

ちなみに、犬印のすべての帆布バッグには、希望のイニシャルや名前を刺繍してもらうことができる。直営店に行けばその場で入れてもらえる。わたくしのバケツトートに入れてもらった刺繍は、当然のごとく「martina」であった(上の写真をご覧あれ)。興味のあるかたには、ぜひ実際に足を運んでいただきたい(わたくしも近々ふたたびお邪魔する予定である)。

(後日談のコーナー:……帰宅後に上記「犬印鞄」コミュニティに参加してみた。すでにたくさんの犬印人間たちが集まっている。どんな人びとが参加しているのかと思い、何人かのメンバーのプロフィールを見てみた。フムフム、とその場は収まった(というかもともとなにかが収まっていなかったというわけではない)のだが、その深夜、知らない人からメッセージが届いた。「足あとをたどってきました。Yさん、お久しぶりです。じつはYさんとは一度お目にかかったことがあって、云々」(大意)……嗚呼! Iさんではないか。そう、もう6年ほどマエ(誤変換)のことになるだろうか、たしかにIさんにお目にかかったことがある。当時の彼女は政治思想を研究する大学生であり、わたくしは彼女のウェブサイトの愛読者であった。それから6年、彼女が大学を卒業してからの消息をわたくしはまったく知らずにきた。携帯電話に空しく残っている名前と(いまでは使われていないはずの)電話番号を目にしたときなど、どこでなにをしてるんだろうなぁなどと考えたりしたものだ。それが犬印様のお導きにより、ふたたびめぐりあえることになったというわけである。彼女はアメリカ留学などをへて、いまでも政治思想の研究に邁進しているとのこと。うれしい話である。)

閑話休題。犬印鞄たちの入った大きな紙袋を抱え、こんどは神保町へ。目指すはキッチン南海である。なぜか。南海に行くにはよい時間だったからである。

周知のとおり、キッチン南海とは正午にならないうちから神保町サラリーマンの長蛇の列ができるザッツ洋食屋、洋食屋日本代表(日本にしかないのだが)のこと。ランチの時間をどうしてもずらすことができないとか、殿様がお忍びで町に下って民草の暮らしをこっそりと覗いてみるみたいな気分をどうしても味わいたいというような特殊な事情でもないかぎりは、ランチタイムは避けたほうがよい。今日は開店時に行けそうだったので、早々に浅草に見切りをつけて神保町に向かったのである(早起きをすると、このようにことごとく事を有利に運べてしまう。なのになぜ歯を食いしばり早起きをしないのか、そんなにしてまで)。

開店後一巡目であるにちがいない清潔なテーブルに着くと、その場はすでに「カツカレーのチェーン・リアクション」情況下にあった。当然それにかぶせてカツカレーを注文する。もちろんこちらは大盛りである。まいったか、ってなもんである。

※申し訳ない。これに「神田古本(セックス)まつり」の話がつづくのだが、ここで力尽きてしまった。「とは申せ」、たいしたことなどまるで書いていないわけだが。「とまれ」、つづきは次回。