哲劇メモ

吉川浩満(@哲学の劇場)の日々の泡

新しいリベラルアーツのためのブックリスト@リブロ池袋本店

いつも楽しいブックフェアで客を迎えてくれるリブロ池袋本店「カルトグラフィア」コーナーにて、「新しいリベラルアーツのためのブックリスト」というフェアが開催されます。46のテーマにたいして46人の選者がそれぞれ3冊ずつ推薦書を挙げるという大規模なもの。

日程:3月20日(金)〜5月13日(水)

場所:リブロ池袋本店書籍館1階人文書フロア カルトグラフィアコーナー

内容:人が本を読むときの楽しみとはなんでしょうか。

読書の魅力の一つに、フィクション、ノンフィクションに関わらず、自分の知らない世界を教えてくれるということがあります。偏りなく広く知識や情報を蓄え、それがまた違う分野へと繋がっていくこと。それは、学ぶことの楽しみであり、学ぶということは、ひらかれた議論を行うことが出来るようになるための礎でもあると思います。

この企画は、様々な分野の本質を学ぶことが出来る本を、それぞれのテーマに対して選者の方に3冊ずつ選んでいただく企画です。フェアに選ばれた本たちが、次の時代をひらく新しいリベラルアーツのブックリストとなれば嬉しく思います。

たいへんおこがましいのですが、不肖私は「サイエンス」の項目を担当しています。フェアのテーマ、フロアの場所と性質、訪れるお客さんの傾向や趣味等々をいろいろと勝手に想像してピックアップしました。

どんな3冊になったかは、ぜひ現地でご確認ください。(遠方にお住まいで来店できない人のために、ページ内にヒントを埋め込んでおきますね。)

理科系の作文技術 (中公新書 (624))

理科系の作文技術 (中公新書 (624))

美の約束

美の約束

北田暁大さんと対談@朝日カルチャーセンター新宿教室

以下のとおり、社会学者で東京大学准教授の北田暁大さんと対談します。
日時は2015年5月9日(土)18時30分〜20時、場所は朝日カルチャーセンター新宿教室。受講料は会員3,456円、一般4,104円(税込)。

詳細と申し込み→ https://www.asahiculture.jp/shinjuku/course/b73f060d-aec9-6db3-4970-54f7f9f4bfb9

北田さんが非常に興味深いトピックを用意してくださいます(私も楽しみです)。みなさまお誘い合わせのうえ、ご参加ください。

 社会ダーウィニズムと呼ばれる社会理論は1940年代ぐらいまでには消え去り、また同じ時期までには、ナチによる優生学の推進とその悲劇から、英語圏で「優生学」という言葉も(いったんは)使われなくなる。社会進化論と遺伝学、優生学との結びつきは、アカデミズムの内外を問わず20世紀初頭のアメリカを席巻し、一度は解体を余儀なくされた。しかし、「社会と遺伝」を結びつける思考は、二次大戦後も名称を変え残り続け、IQをめぐる論争から社会生物学論争、遺伝子組み換えの是非、遺伝子診断に至るまで、私たちの社会を覆い続けている。先進福祉国家スウェーデンにおいて70年代に至るまで「断種法」が実効の状態にあったとの衝撃のニュースが報じられたのは、つい先ごろ90年代末である。私たちの社会は、「優生学」に囚われつづけたままである。

 この「社会と遺伝」という問題への強迫と忌避とが、科学という領域を超えて沸き上がったのが、ウィルソン、ドーキンス、ルウォンティン、グールドらを主要登場人物とする社会生物学論争である。一般的にはこの論争は、「利己的な遺伝子」を上梓したドーキンスが、「断絶平衡説」を唱えたグールドに勝利したと考えられている。科学的な定式化の単純性、合理性、説明力において、社会生物学は勝利した。しかし、敗北したグールドらもまた進化論や遺伝そのものを否定していたわけではない。また単純に「政治的イデオロギー」が科学的判断を誤らせた、と言い切るのも難しい。吉川は『理不尽な進化』にて、この大論争をとりあげ、グールドを「科学」とは異なる「歴史」の視点から捉え返し、その問題意識の重要性を論じている。「イデオロギー」ゆえにではなく「学問観」の観点からグールドを救済したわけである。

 本講座では、そうした吉川のグールド論を承けつつ、「社会」と「遺伝」「進化」のかかわり方を、考察していくこととしたい。これは、「科学とはなにか」「進化の単位は何か」というコアな科学哲学的論点から、「遺伝の比喩の社会的影響」「なぜ私たちは「遺伝」に拘るのか」といった社会学的論点まで広がりを持つものである。社会生物学、進化論を社会学的に裁断するのではなく、その科学としてのあり方の条件を議論し、遺伝子にとりつかれた私たちの社会を捉え返す。(北田講師・記)


北田 暁大 (キタダ アキヒロ)
1971年生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科博士課程退学後、東京大学助手、筑波大講師などを経て、現在は東京大学大学院情報学環准教授。博士〈社会情報学〉。専攻は理論社会学、メディア史。著書に『広告の誕生』『広告都市・東京』『責任と正義』『〈意味〉への抗い』『嗤う日本の「ナショナリズム」』『限界の思考』ほか。


吉川 浩満 (ヨシカワ ヒロミツ)
1972年3月、鳥取県米子市うまれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。国書刊行会、ヤフーを経て、文筆業。関心領域は哲学、卓球、犬猫鳥、ロック、映画、単車など。著述に『心脳問題──「脳の世紀」を生き抜く』(山本貴光との共著、朝日出版社)、『問題がモンダイなのだ』(山本との共著、ちくまプリマー新書)、翻訳に『マインド──心の哲学』(山本との共訳、ジョン・R・サール著、朝日出版社)など。

増補 広告都市・東京: その誕生と死 (ちくま学芸文庫)

増補 広告都市・東京: その誕生と死 (ちくま学芸文庫)

理不尽な進化: 遺伝子と運のあいだ

理不尽な進化: 遺伝子と運のあいだ

著者インタビュー@宝島

雑誌『宝島』2015年4月号に、拙著『理不尽な進化』についての著者インタビューが掲載されました。

  • 「BOOK JUNCTION 今月最高の面白本はこれだ! 著者に訊け! 吉川浩満」、『宝島』2015年4月号、p.87

宝島 2015年 04 月号 [雑誌]

宝島 2015年 04 月号 [雑誌]


インタビューと文はボブ内藤さん、企画編集は高岡洋詞さん。新宿の喫茶店「名曲・珈琲 らんぶる」にてお目にかかりました。ありがとうございました。

20数年前の中高生時代、『宝島』には音楽についてたくさん教えてもらいました。いまはこんな雑誌になっているんですねえ……(遠い目

表紙にはなかなかしんどい感じの特集が並んでおりますが、よかったらコンビニ、書店などでご覧ください。87頁に出ています。本日発売。

理不尽な進化: 遺伝子と運のあいだ

理不尽な進化: 遺伝子と運のあいだ

大野秀樹さん(図書新聞)

本日発売の『図書新聞』にて、『理不尽な進化』の書評が掲載されました。

  • 大野秀樹「進化論は「自然の説明」と「歴史の理解」の真ん中に位置する」、『図書新聞』2015年2月28日号


生命の樹自然淘汰という──引用者註)二つの大きな柱をベースに、さまざまな文献を引用して吉川進化論または吉川進化史観とでも呼べる著者の進化観が展開されていく。特に、ダーウィンの思想的後継者であるドーキンスと修正ダーウィニズムを唱えるグールドとの有名な論争(…)に重点をおくが、後者をドン・キホーテ的敗者と結論している。しかし、グールドへの視線はあくまでやさしい。まさに、敗者側からの歴史である。(…)一方、歴史を完全に捉える方法を人間はまだ発明していない。つまり、どの事実を記述するべきなのかという選択がすでになされていなければ、何もはじまらない。その意味で、歴史家は必然的に選択的だ。つまり、本書は理系よりも文系の進化論といえるかもしれない。

大野秀樹氏は、社会医療法人財団大和会常任理事・杏林大学名誉教授。スポーツ科学、衛生学、環境生理学が専門で、昨年まで杏林大学医学部衛生学公衆衛生学教室で教鞭をとられていました。ありがとうございます。

拙著『理不尽な進化──遺伝子と運のあいだ』は、本当に書評に恵まれた本だと思います。私の知るほとんどすべての大新聞と書評新聞(掲載順で毎日新聞日経新聞、各地方紙=共同通信朝日新聞、読売新聞、週刊読書人図書新聞)が書評を掲載してくれました。各紙のご担当と書評者の皆様に感謝いたします。

もはやどこに足を向けて眠ればよいのかわかりません(産経新聞社の方角を調べておきます)。

理不尽な進化: 遺伝子と運のあいだ

理不尽な進化: 遺伝子と運のあいだ

寄藤文平さん(ケトル)

なんと、アートディレクター/グラフィックデザイナー/イラストレーターの寄藤文平さんが、『理不尽な進化』の書評を書いてくださいました。


10年ほど前から、年の初めに自分の年譜をつけることにしている。(…)「理不尽な進化」を読みながら、その内容に、自分の年譜づくりがダブった。(…)


はて、なんの話をしようとしたのだったか。実のところ、本は読了したのだけれど、何が書いてあったのか、よくわからないのである。丁寧に編まれた、進化と進化論についての考察だったことは覚えているのだけれど、本を閉じると同時に、ほどけて消えてしまった。


ただ、「進化論」が身の回りのあらゆるところに接続して、「進化論」の外側に思考が開かれていく「感じ」は残っている。自分の思考回路がこんなにも「進化論」の影響を受けているとは思わなかった。数ページ読んでは本を閉じ、いろいろなことを想像したり、考えたりするという、そういう読書を久しぶりに楽しんだ。

ご自身の経験と拙著の内容とを接続した、たいへんに味わい深い随筆作品です。書店で掲載誌を購入してこの記事を書くまでの短い間に3回も読みなおしてしまいました(私もこんな文章を書けるようになりたいものです)。ありがとうございました。

寄藤文平氏については、お名前をご存じでない方も、そのイラストをご覧になれば、ひと目で「それな!」とピンとくると思います。街を歩けば文平に出会うというくらいですし、私の書棚にも氏のイラストやブックデザインの施された本が何冊もあります。 → Google画像検索結果:寄藤文平

しかも掲載はあのお洒落なカルチャー誌『ケトル』(太田出版)。これまでの掲載紙誌がそうでなかったとは口が裂けても申しませんが、しかし、これを機に私には無縁であったシャレオツな出会いが訪れそうな予感がして心が躍ります。

なお、同号の特集は「辞書と図鑑が大好き!」。高橋源一郎エッセイ、みうらじゅんインタビュー、辞書・図鑑ヒストリー等々、盛りだくさんの完全保存版となっております。ぜひご覧ください。本日発売。

ケトルVOL.23

ケトルVOL.23

理不尽な進化: 遺伝子と運のあいだ

理不尽な進化: 遺伝子と運のあいだ