哲劇メモ

吉川浩満(@哲学の劇場)の日々の泡

チリンチリン

近所のオープンキャッフェーでコーヒーを飲んでいたら、チリンチリンと自転車のベルの音が聴こえてきた。

音はしだいに遠のいていく...わけでもなければ近づいてくるわけでもない。ずーっと同じ場所で鳴っているようなのだ。

なんだろうと気になって外を見やる。ベンチに座っているおばあさんが、自転車のベルを指輪のように左手の指にはめ、チリンチリンと鳴らしていた。30秒くらい鳴らしつづけ、いったんやめる。そして思い出したようにふたたび鳴らしはじめる。

「むしゃくしゃしてやった」とかいう風にはまるで見えない。なにかの合図だろうか。待ち合わせているだれかへのメッセージか。それともただ自分の存在を知ってもらいたいということなのか。はたまた混迷する現代社会へ向けた警鐘か。

ひょっとして迷子になってしまったのかもしれないと思ったとき、隣のテーブルからこんな声が聞こえてきた。

今日もいるね、あのおばあさん。

チリンチリンは断続的に30分間つづいた。