哲劇メモ

吉川浩満(@哲学の劇場)の日々の泡

合作という方法――エラリー・クイーンの場合

クイーン談話室

クイーン談話室

ぼくが上記K書刊行会(以下、「K書」と略記)に入社したばかりのころに刊行された作品を、今朝実家の書棚で再発見。あれからもう10年かぁ☆%¢§☆○£★♭∽(*1)とひとりで勝手に慨嘆した。

同書を手がけたのは、現在は「藤原編集室」で活躍中の藤原義也さん(*2)。当時はまだK書の編集部に在籍されていた。のちに彼のもとで仕事をさせていただく幸運に恵まれたにもかかわらず(!)すぐに辞めることになってしまい、いまでもちょっぴり申し訳ない気がしている(いまさらゆーな

「世界をリードするミステリ雑誌」『エラリー・クイーンズ・ミステリ・マガジンEQMM)』からおもに選び出された50のコラム――テーマは「ある収書狂の進化の四段階」「完全無欠な書籍の収集家の進化」「紳士探偵の性生活」等々。それに「跋」もすばらしい――数年ぶりにたいへん楽しく読み終えた。

でも、今回いちばん興味をひかれたのは、じつは付録の「エラリー・クイーン小伝」。最初に読んだときには付録ということでスルーしてしまったんだろう、ぜんぜん覚えていなかった。

ミステリ・ファンには周知のとおり――以下すべての段落にこの前置きを入れてお読みください――、エラリー・クイーンとは、フレデリック・ダネイ(1905-1982)&マンフレッド・リー(1905-1971)コンビのペンネーム(兼探偵、研究家、収書家、編集者、etc.)。この付録では、ふたりがどんな風に「合作」していたのかについて、簡単にではあるけれど触れられている。

同書によると、ふたりの合作方法の基本は、「ダネイが登場人物とプロットを考え、リーがそれに肉付けをして小説にする」(p.270)というものだったようだ。ところで、最初にダネイがつくってくるアウトラインは、かなり細かいものだったらしい。長さは完成作品の四分の一くらいで、登場人物のスケッチや会話、物語の細部を含んだ章割までできていたとのこと。

とても効率的(?)な合作方法だと思うのだけれど、これはこれでたいへんそうだなぁ。たとえばダネイは「リーの肉付けでは俺のつくったアウトラインのおもしろさが生かされていない!」と思うかもしれないし、他方でリーは「ダネイのアウトラインではいくら肉付けをがんばってもおもしろくならない!」と思うかもしれない。その辺どうしてたのだろう。やっぱりミーティング(*3)しかないのかな。余計なお世話ながら(*4)、さらに他人事ながら(*5)、少し心配になった。とはいえ、ときに予想外のモノが相棒の手の内から飛び出してくることもあるわけで――またそれがなければおもしろくないわけで――、これは合作ならではの醍醐味だと思う。

それと、ひとくちに合作といっても、時とともにだんだんとその方法が変化してくるのもおもしろい(あたりまえだが)。徹底的な討論をしていたデビュー当初だが、『Xの悲劇』(1932)のころには上記のような役割分担が確立される。その後さまざまな紆余曲折(不仲説やスランプ説あり)があり、『盤面の敵』(1963)ではダネイがアウトラインを書き、SF作家のシオドア・ジョーダンが肉付けをし、その原稿をダネイとリーでチェックする、なんていう方法もとられた。その辺もまた合作ならではの(再

ともかく、今回の帰省で同書に再会できたのはうれしい余禄であった。さぁ、アルコールもまわってきたことだし、ここらで筆を擱くか。明日からまた合作に励みます。

  • (*1)わが「胸中を去来」したさまざまな思いを表現。
  • (*2)ミステリ・ファンで知らなければモグリと思われます。cf. 本棚の中の骸骨 - 藤原編集室通信 http://www1.speednet.ne.jp/~ed-fuji/
  • (*3)名づけてEQミーティング。
  • (*4)ふたりともとうに亡くなってるわけで。
  • (*5)他人事じゃないという説あり(掘墓穴