哲劇メモ

吉川浩満(@哲学の劇場)の日々の泡

加藤典洋さん(共同通信)

加藤典洋さんによる『理不尽な進化』書評が各地の地方新聞に掲載されはじめました。共同通信配信で、いまのところ山梨日日新聞中国新聞での掲載を確認しています。ちなみに、書評本文は同一ですが、見出しは各紙によって異なります(画像参照)。たとえば山梨日日新聞の場合は「適者生存の原理の面白さ」、中国新聞は「種の生存 運か遺伝子か」といった具合。これを決めるのはご担当の記者やデスクの方々でしょうか。それぞれのご趣味が垣間見えるようで興味深いです。

新しい種類の書き物である。テーマは進化論。新しいという意味は二つある。/一つは一見難解な文系と理系の間の境界領域をやすやすと遊弋し、エンタメまじりに楽しむ知的な書き手が現れたこと。二つは、私には特にうれしい驚きだが、現在の大多数の本と思想が無意識裡に軍門に下っている広義の「進化」イデオロギーから自由な、成熟した感性がここにあること。

若いに似合わない視野の広さ、敗者への想像力、老熟の文体がスリリングである。

またもや過分なお言葉をいただいてしまいましたが……ありがとうございます!

私は学生時代から氏の著書を愛読してきました。最初に読んだのは『君と世界の戦いでは、世界に支援せよ』(筑摩書房)で、たしか大学3年生のころ(1993年ごろ)。当時、別の学校の加藤ゼミに所属していた友人(先日、言及しました)に影響されて読みはじめたのだと記憶しています。もとはといえばそんな風にある種受動的に手にとったわけですが、同書に収録されている吉本‐埴谷論争についての評論(「還相と自同律の不快──「政治と文学」論争の終わり」)に強い印象を受け、それ以来、折にふれて読み返すことになりました。だからいちばん愛着を感じるのもこの作品です。じつは今回、『理不尽な進化』でドーキンス‐グールド論争をとりあげる際にも、あらためてこの優れた評論を再読し、気合いを入れたうえで事に臨んだのでした。あれから20年、当の加藤さんからこのような評をいただけることは望外のよろこびであり、……なにか続けようとしましたが言葉が浮かんできません。とにかくそれほどのよろこびです。

さて、拙著『理不尽な進化』は養老孟司さん(毎日新聞)を皮切りに、山形浩生さん(cakes)日経新聞東海財界、そして今回の加藤典洋さん(共同通信)と、新旧大小さまざまなメディアで書評をいただいております。また、ブログやTwitterAmazonFacebookなどでも、あんな長い文章をわざわざしっかり読んでくださったのだなあと感激するような評をいただいております(提出された批判や疑問についても、考えさせられるものばかりです)。まだ刊行されて間もないというのに、こいつ(拙著)は本当に幸せ者だと思います。

とは申せ。私は「まえがき」で次のように書きました。

敬愛する小説家の大西巨人は、二〇世紀文学の記念碑的超大作『神聖喜劇』について、次のように言っている。もし自著(『神聖喜劇』)が有志具眼の読者三百人に出会うことができたなら、それは望外のよろこびである。同じように、もしそれが三千部も売れたならば、「以て瞑すべし」であろう。しかし、著書をあえて公に刊行した以上、それが三億部か三十億部か売れることも願望せざるをえない、と。
私も同じ気持ちである。

そういうわけで、ここで満足するわけにはいきません(三億部どころか一億部にも達しておりません)。新聞、雑誌、テレビ、ラジオ、ネット等々において、どんな方がどんな評価をしてくださるのか、まだまだこれからも楽しみにお待ちしております。

君と世界の戦いでは、世界に支援せよ

君と世界の戦いでは、世界に支援せよ

人類が永遠に続くのではないとしたら

人類が永遠に続くのではないとしたら

理不尽な進化: 遺伝子と運のあいだ

理不尽な進化: 遺伝子と運のあいだ