哲劇メモ

吉川浩満(@哲学の劇場)の日々の泡

ほとんど記憶のない女

ほとんど記憶のない女

ほとんど記憶のない女

おもしろい。

「ブッキッシュ」かつ「書くことについて書く」ような作品が大っ嫌いな人でも、本書なら許せるかもしれない。ユーモアがあるから。

『さようなら、私の本よ!』(大江健三郎)の読者なら長江古義人の「徴候」を彼より華麗かつ厳密に実践(=「そんなことをして何になる!?」)している人物を表題作「ほとんど記憶のない女」に見いだすことになるかもしれない。フーコー読みならフーコーとエンピツ」で思わず膝を打つところがあるかもしれない。つねに彼との(ディス)コミュニケーションにわだかまりを感じている人なら「たいていの場合彼が正しい」によって真実を知ることになるかもしれない(しかしもちろん事態は決して変化しないであろう)。ウェブ日記あるいはブログ作者ならグレン・グールドによって自らの「ブログ作法」の救いようのなさを悟ることになるかもしれない。

……もちろん、本書を読み終えることで「ブッキッシュ」かつ「書くことについて書く」ような作品がさらに大っ嫌いになることもあるかもしれない。ご注意を。

白水社
http://www.hakusuisha.co.jp/