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哲劇メモ

吉川浩満(@哲学の劇場)の日々の泡

24 Carat Purple

音楽 随想 人さまざま


早起きできたので仕事。なつかしい音楽を聴きながら。

 *-*

はじめて聴いたディープ・パープルのレコードは、『24 Carat Purple』という企画盤(ベスト盤)だった。

24 Carat Purple

24 Carat Purple

ディープ・パープル(のようなもの)とはじめて出会ったのは、(記憶は定かではないが)20年ちかく昔のことで、たしかカセットテープかなにかのテレビCMであった。桑田佳祐が人びとの肩にかつがれて「スモーォッコンザッウォーターア!」と叫んでいた。それが桑田の曲なのかそれともほかのだれかの曲なのかはわからなかったが、桑田にではなくそのコーラス部分のメロディに強烈な印象を受けた。

ディープ・パープル(の本物の曲)とはじめて出会ったのは、(これも記憶は定かではないが)「クロスオーバーイレブン」というNHKのラジオ深夜番組であった。上記のCMを観てからしばらくたってからのこと。この番組、冒頭に超渋いナレーション――流す曲の内容とはとりあえず関係のないナレーション――があって、最後にナレーターが、これまた渋い声で「クロスオーバー... イレブン」とつぶやくのである(「クロスオーバー」と「イレブン」のあいだのタメが重要)。

街も深い眠りに入り
今日もまた 一日が終わろうとしています
昼の明かりも闇に消え
夜の息遣いだけが聞こえてくるようです
それぞれの想いをのせて過ぎていく
このひととき
今日一日のエピローグ
クロスオーバー・イレブン
http://www5b.biglobe.ne.jp/~co11/narration.html

最後の「クロスオーバー... イレブン」が放たれた直後、異様なまでにかっこいいギターリフがぼくの脳髄を突き刺した。このナレーションに、このリフとは。不意打ちもいいところ。稲妻に打たれたように全身がしびれた。あのとき桑田が歌っていたのはこの曲だったのか。それでもなお、あれがだれの曲なのかも、なんという曲なのかもわからなかった。

しかしほどなくして、ついにぼくが「Smoke on the Water」を「Smoke on the Water」として、ディープ・パープルをディープ・パープルとして認識する日がやってくる。それは「クロスオーバーイレブン」を聴いた直後、M兄ちゃんの教示によってであった。

 *-*

子ども時代のぼくが慕っていた親類に、M兄ちゃんという人がいた。

いわゆる不良(と書いてワルと読む)だった。とても優しくて、さらにいろんなオトナな物事(タバコとか、『成りあがり』とか、「恋人」とか)を教えてくれた。

彼は一家とともに大きな一軒家に住んでいたのだが(パチンコ屋と雀荘を経営するお金持ちだった)、当時ぼくは彼の部屋に週3くらいのペースで遊びに行っていたんじゃないかと思う。彼がいるときでもいないときでも部屋に遊びに行っていい。そう許可をもらっていたので、ぼくは親類の家に上がるなりそのまま彼の部屋に直行した。いま思えばちょっと可笑しい(というか、いまなら許されないだろう。当時のぼくの田舎ではふつうのことだったが、家には鍵がかかっていなかった)。

M兄ちゃんの部屋の壁には、E.YAZAWAのポスター(矢沢ファンだった)や、レザーのつなぎ(単車乗りだった)や、「1000人マリオ達成!」と書かれた紙切れ(ゲーム好きだった)がかかっていた。そういえば、『成りあがり』も彼の部屋で(無断で)読んだのだった。

ともかく、あのM兄ちゃんなら知ってるかもしれない。そこで、彼がいるときに彼の部屋を訪ね、M兄ちゃんに聴かせるまではと一生懸命に忘れないでおいたそのリフを、彼に口真似で披露してみた。

デッデッデー、デッデッデデー、デッデッデー、デッデー

聴くなり彼は満面の笑みを浮かべた。

ヒロよぉ。そ・れ・は、「スモーク・オン・ザ・ウォーター」だが!(*)

そう言いながら、彼は一枚のレコードを木製のボックスから取り出してきた。それがこの『24 Carat Purple』だったというわけだ。ぼくはそれをカセットテープに吹き込んでもらって、その夜から繰り返し繰り返し聴いた。歌詞を覚えるために、大きな画用紙に歌詞を書いて部屋の壁に貼った。

画用紙は、いまでも田舎のぼくの部屋にあるんじゃないかと思う。

以上。

  • (*)彼はぼくに呼びかけるとき、必ず「ヒロよぉ」と言った。これは彼独自のスタイルであって、田舎の方言ではない。

追記

『24 Carat Purple』収録の「Child in Time」(ライヴ@大阪)を聴きながらあたらめて思ったんだけど、第2期ディープ・パープル当時のイアン・ギラン(ヴォーカル)は、ほんとうにシャウトがうまい。タイミングといい、音程といい、音量といい、長さといい、これでもかこれでもかというくらい決まりまくっている。有名なロバート・プラントの奇蹟のヴォイスもほんの少ししかつづかなかったが、イアン・ギランのシャウトもそれくらい貴重なものだったのではなかろうか(いま思えば)。

ところで、この盤には「Smoke on the Water」と双璧をなすといわれる名曲「Highway Star」が入っていない。

『24 Carat Purple』のことがあってしばらくしてからのこと。ある日、M兄ちゃんがこう尋ねてきた。

ヒロよぉ。「スモーク・オン・ザ・ウォーター」もええけどなあ、もう一曲すげえのがあるで。知っとうか?

間髪を入れず自信満々で答えた。

「ハイウェイ・スター」!

じつは、M兄ちゃんに『24 Carat Purple』を吹き込んでもらってから、ぼくは「独自に」、『Machine Head』や『Live in Japan』(『Made in Japan』)をレンタルレコード屋(当時はCDでなくて塩化ビニールの時代であった)で仕入れて聴き込んでいたのである。

聴くなり彼は満面の笑みを浮かべ、そしてぼくの回答を粉砕した。

まあそれもええけどな。やっぱり「紫の炎」だで!

ムラサキノホノオ……なんという曲名! この曲(「Burn」)を聴くために、ぼくがふたたびレンタルレコード屋に走ったのは言うまでもない。

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