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哲劇メモ

吉川浩満(@哲学の劇場)の日々の泡

怒りについて

哲学 抜き書き

怒りを治す最良の薬は「引き延ばし」である。このことを最初に怒りに要求すべきであるが、それは相手を許すためではなく、判断するためである。怒りの最初の衝撃は激しいが、待つならば静まることになる。また、それを一挙に全部取り去ろうとするのもよくない。少しずつ毟り取っていけば、やがては全部が征服されることになる。われわれを怒らせることのうちには、告げ口で聞くこともあり、また自分自身で聞いたり見たりすることもある。話を聞いても直ぐに信用してはいけない。相手を騙すために嘘をつく者も多いし、自分が騙されて嘘をつく者も多い。中傷を行なって感謝をされようとする者もあり、また損害をでっち上げて、いかにも被害に苦しんだかのように見せんとする者もいる。また腹黒い人間がいて、しっかり結びついた友情を引き離さんとすることもある。更に後ろには黒幕もいて、自分が相争わした双方の試合いかんを見ようとして、遠くの安全なところから高みの見物を決め込む者もいる。ごく僅かな金額のことを裁こうとするにも、そのことを証人なしで判断してはいけない。証人も宣誓することなしに証言する資格を持ってはいけない。また当事者の双方に訴権も与え、時間も与えてやるべきであろうし、一度ならず耳も貸してやるべきであろう。真実というものは、近くに寄るたびごとに、ますます輝きを増すからである。君は親友を立ち所に有罪と決めるだろうか。その申し立ても聞かず、尋問もせず、その告訴人も告訴理由も知る機会を与えずに、君は怒るであろうか。実際すでに、双方からの言い分を、君はもう聞いているであろうか。君に告げ口をした者でさえも、それを確証すべき段になると、もはや言うことを止めるであろう。その者は言う。「いや、私を引き出す必要はないでしょう。私までも連れ出すなら、私は嫌と言います。そうでなければ、私はもう何もあなたには申しあげられません。」そのように突っかかってくると同時に、彼も喧嘩口論から退却にかかる。内密でなければ君に話そうとしない者は、大したことは話さないのだ。内緒ごとを真に受けて、明らさまに怒るほど不公平なことがあるだろうか。(セネカ『怒りについて 他一篇』茂手木元蔵訳、岩波書店、1980、pp.93-94)

そうはおっしゃいますが先生。たしかにおっしゃるとおりなのかもしれませんが……でも、でも。いえいえ、小生ごときが先生のご高説に反論するだなんて大それたことは考えるだにおそろしいことです。ただ……、どうしたわけだか、いつも「引き延ばし」の箇所で吹き出してしまうのですよ先生。

怒りについて 他二篇 (岩波文庫)

怒りについて 他二篇 (岩波文庫)

◇『セネカ哲学全集』 - 岩波書店
http://www.iwanami.co.jp/.BOOKS/09/4/092631+.html