哲劇メモ

吉川浩満(@哲学の劇場)の日々の泡

日本に生きるということ


アテネ・フランセ文化センターでは現在、山形国際ドキュメンタリー映画祭2005の「前夜祭」を開催中。9月22日は特集上映「日本に生きるということ――境界からの視線」に関連する3作品が組まれている。

すべて未見。ちなみにJ Movie Wars版の『月はどっちに出ている』は、劇場公開版(映画版)の前にWOWWOWで放映された別作品。主演は岸谷五朗ではなく石橋凌

それにしても、よりによって原稿締切日にこのプログラムとは。どうしようもない。...行ってみるか(結局行くんかい)。

追記

行ってきました、アテネ・フランセ。以下、プログラム順にレポート。

まず、しょっぱなから恐縮だが、家でモタモタしているうちに帰って来たヨッパライに間に合わなかった(オイ)。自分のせいとはいえ、これにはヘコんだ。しかしタダでは転ばない。……というかべつに自慢できることでもなんでもないが、アテネ途上の新宿(*)でヴィデオ版『帰って来たヨッパライ』(VHS)をレンタルして会場に向かう。

  • (*)「アテネ途上の新宿」。なんかいい。

最初に観たのは崔洋一監督のWOWWOW作品『J Movie Wars 月はどっちに出ている』。初めて観たが、石橋凌の姜忠男はよかった。でもはたして109分(劇場版)もつかなぁ、という気にもなる(コニーはあいかわらずよかった)。小気味よいが、作品としては劇場版のほうが好きだ。あ、そうそう。音楽がよかった。憂歌団の主題歌だけでなく、劇中に流れるインストゥルメンタルも。あの『博士の異常な愛情』でも流れている「ダダダダッタ・ダッタ・ダッタ・ダーッ・ダダーッ」のアレンジはすばらしい(有名な曲だろうけどタイトルは知らん。知っているご親切な人、教えてください。そういえば『ダイ・ハード3』でも使われていたっけ)。

次は松江哲明監督の『あんにょんキムチ』日本映画学校の卒業制作としてつくられたドキュメンタリー作品。山形映画祭'99アジア千波万波特別賞&NETPLACE特別賞受賞作。「在日朝鮮人三世の監督が自分のルーツを探る旅に出る」(大意)という紹介文を読んだとき、一瞬いやな予感がして(「また〈自分探し〉〈ルーツ探し〉か?」)、実際はじめの数分間は戸惑ったのだが(わたしは〈自分探し〉〈ルーツ探し〉から距離をおきたいから)、観ていくうちにそれが杞憂だということがわかった。ルーツを探る(確定する)営みが、実際にはルーツの確定など「だからいいんだよべつに」(©妹さん)という営みになっていく。もちろん、作中で「ルーツ」なる概念が重要でなくなるわけではない。それはむしろ中心テーマとして作品全体を貫いているのだが、それと同時にまたそれが「だからいいんだよべつに」というものにもなっている。これは同作品のカメラの手腕――監督=主人公のカメラが映し出す周囲の人びとの魅力。そこには監督自身の手腕と同時にカメラ自体がもつ「手腕」との両方があるだろう――が可能にしたものだろう。佳作である(「次点」という意味ではなく、「出来栄えのよい作品」という意味)。とくにおばあちゃんと妹さんがいい。とまぁ、そんな風にわたしはこの作品を観た。

最後は梁英姫ヤン・ヨンヒ)監督の『What is ちまちょごり?』『揺れる心』。前者には民族学校に通う(通った)生徒たちが、後者には公立高校に通う在日朝鮮人生徒たちが出てくる。どちらも挑戦的あるいは問題的なものには見えない――あくまでいまの視点からすれば、だけれど。でも当時は「チョゴリ切り裂き」事件が話題になっていたころだったと思う。ちなみにGoogleなどで検索してみると「自作自演説」を唱える記事が妙にたくさんヒットする――が、しかし素直に「観てよかった」と思える。後者の中心テーマは、本名/通名という「名前」と「名乗り」の問題。とくに印象に残ったのは尼崎市立尼崎高校の「特設ホームルーム」――さまざまな思いが「胸中を去来」した。ホームルームってなんだろう?――での城山くんの姿だった。ちょっとあれは忘れがたい。ちなみに、名前と名乗りの問題についてはわたし自身も(妹との関連で)ちょっと身に覚えがあるので、いつか機会があれば書いてみたい(書く気になったら)。

すべてを見終わったのち(前述のとおり『帰って来たヨッパライ』は見損なったのだが)、水道橋のふらんす亭で飯を食って帰った。ハンバーグ+牛肉ねぎ塩焼き+カレーライスというとんでもないセットがあったので、それを。

以上。

アテネ・フランセ文化センター
http://www.athenee.net/culturalcenter/

山形国際ドキュメンタリー映画祭2005
http://www.city.yamagata.yamagata.jp/yidff/

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